『連合艦隊ついに勝つ』 高木彬光 (角川文庫)
しばらく前に流行った、架空戦記(IF戦記)の草分け的な作品。著者の高木氏は『神津恭介シリーズ』や『検事霧島三郎シリーズ』で有名な推理作家です。なんで推理作家が戦記物を、しかも架空の…などとやぼなことは言わずにまずはご一読を。スカッとします。なんかこう溜飲が下がったというか、かゆいところに手が届いたというか。
太平洋戦争で行われた海戦中、日本海軍は4つの決定的なミスを犯しました。1つ目はミッドウェイ海戦での雷爆転装による時間のロス、2つ目は第一次ソロモン海戦で湾にいた米軍輸送船を攻撃しなかったこと。 3つ目は第3次ソロモン海戦に戦艦大和を参加させなかったこと。そして4つ目はレイテ沖海戦での栗田艦隊の謎の反転。この『連合艦隊ついに勝つ』ではその4つのミス、言い換えると4つのチャンスを叶えて連合艦隊を局部的にせよ勝利させてしまうというお話です。こういった架空戦記物にありがちなタイムスリップは強引な気がしますが、まあその辺は笑ってすませてしまうほど、完成度が高いというか説得力のある作品で、私は中学生の頃からこの本は、おそらく10回以上読み返しています。
よく、『講談師、見てきたようなうそを言い』(だったかな)といいますが、最初のタイムスリップのミッドウェイ海戦当日の様子は、おそらく素人がはじめて海戦(航空戦)を目の当たりにしたらこんな感想を持つだろうと思わせる恐ろしいほどの臨場感を感じます。ちなみに木氏は従軍経験はあるものの、海軍ではないので、まさしく『見てきたような…』でしょう。元海軍士官で作家の豊田譲氏の解説がこの作品の迫真性を裏付けています。
ストーリーは結局、局部的な勝ちを得るものも、細かい歴史の復元作用によって(タイムトラベルものによくあるやつ)日本は敗戦に向かうのですが、とにかく読んでああ面白かった(不謹慎かもしれないが)と思える戦争物というのはあまりないので、そんな意味でも貴重な一冊です。
しかし、なんだ、こんな行為でタイムトリップが出来てしまうのは、嬉しいことなのか、困ったことなのか。(『こんな行為』というのは読んだ人だけのお楽しみ。君、下ネタはいかんぞ。下ネタは。)
2006年11月13日