帝国の死角 上・下  高木彬光著 (角川文庫)
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 『高木氏推理小説中の最高傑作』と、私は思います。もちろんひとそれぞれ『刺青殺人事件』だろとか『ハスキル人』(推理小説じゃねえか・・・しかもハスキル人を最高傑作に挙げるひとはまずいまい。)が一番だとかいろいろご意見もありましょうが、私はこの帝国の死角が最高だと思います。飛行機もの、戦記ものとはちょっと違うけど、上巻の主人公は海軍士官で、山本五十六大将の密命を帯びて独逸国に渡ったという設定なのでご容赦のほどを。事実私は中学3年の時、上巻のみを読んで「なるほど、戦時中、こんなことがあったのか〜」と、この本は『事実をもとにした小説』だと思っていました。一応物語として完結しているのでその後2年ほど下巻は読まず、高校2年の時上巻を再読し、「下巻も読んでみるかぁ。」と松本駅の改造社という本屋で購い、主に倫社の授業中読みふけりました。(戸内先生ごめんなさい。もうしません)
 上巻「天皇の密使」は『私』という一人称で書かれています。『私』こと海軍軍人鈴木高徳少佐が山本大将の密命を帯び、ベルリンに渡るところから話が始まります。その密命とは、天皇家の預金を使いヨーロッパの戦乱で価格の下落した白金などの重要物資を買いつけ、戦争準備中の日本に送ること。しかし、大量の物資を買いつけたのだが、折り悪く太平洋戦争が始まり、物資を日本に送ることができなくなってしまいます。それを嗅ぎ付け横取りをたくらむナチス将校との暗闘、ドイツ人女性との悲恋、仲間の裏切りなどが戦乱のベルリンを舞台に展開され、やがてドイツの、そして日本の降伏で上巻は幕を閉じます。とにかくこの上巻を読むだけでも既に作品として完結しているので、(そしてそれは作者の意図しているところなのだが)それだけ読んでも楽しめます。
 下巻の物語はいきなり昭和40年代から始まります。であれよあれよというまに事件が起こり、上巻でのストーリーを絡めつつ事件はすすみ、そして解決します。
 「上巻はそのために書かれたものだったのね、ともあれハッピーエンドでよかったよかった」と思いつつ、1000ページにならんとするこの物語を倫社の授業中堪能した私は、ついでのように書かれたエピローグを読んで真に驚愕しました。今まで読んできたこの物語はなんとすべて(以下略)
 推理小説を読みなれた人なら先が読めてしまうかもしれませんが、高木氏以外の推理小説はあまり読まない私は、『やられた〜』感に打ちのめされて、ばったり倒れてしまいそうでした。倫社の授業中に。・・・騙される快感を予感しつつ、ぜひ御一読を。


2007年9月7日記
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